氏名:阿部 竹浩
(アベ タカヒロ)
期別:7期未習(2012年度修了)
所属:防衛省航空自衛隊航空幕僚監部首席法務官付(市ヶ谷基地)、1等空尉
1 現在の職務内容
私は、もともと航空自衛隊の法務幹部(自衛官)であり、平成21年4月から平成24年3月までの3年間、公務として千葉大学専門法務研究科に出向していました。私の場合、法学部出身ではなかった(防衛大学校国際関係学科卒業)ため、体系的かつ分野横断的に7法や選択科目を学べたことは、現在も大きな財産になっております。
大学院修了後は、また航空自衛隊の法務幹部として勤務しており、航空総隊司令部法務官付(横田基地)を経て、平成26年3月から、現在の航空幕僚監部首席法務官付として勤務しております。
航空自衛隊の法務組織は、民間企業で言えば法務部に相当するものであり、航空自衛隊の適法性の確保のための諸活動を実施しております。私の場合、前任地の横田基地では、国側の指定代理人として訴訟に従事し、また、自衛隊ならではの法務業務としては、国内法・国際法に亘る防衛法制の観点から自衛隊の活動の適法性を担保するため、指揮官や各幕僚に法的助言を実施する任務を実施しました。現在は、市ヶ谷において、法務関連の事業の予算業務等に従事しており、昨年は、国際人道法(捕虜の人道的取扱いなどを規定する国際法)についての国際会議にも参加しました。
民間企業でもコンプライアンスが厳しく要求される昨今ですが、自衛隊の活動は、主権国家を代表しての活動ですので、当然、私企業のコンプライアンス以上に、適法性の確保が要求されます。そのため、国内法・国際法に照らして我の法的正当性を積極的に内外に発信し、我が国の内外から信頼、理解、協力を得る必要があります。この重要な任務の一翼を担っていること、その基礎基本となる法的思考力を法科大学院で学べたことを誇りに思っております。
2 在学時の勉学
もともと公務として勉学に励むことを命じられておりましたので、朝から晩まで1日16時間程度、自習室において勉学をしておりました。
また、3年間勉学に専念できる環境を頂きましたので、司法試験に直接関係するか否かといった観点ではなく、基礎から応用までじっくりと学ぼうと思い、我妻栄、田中二郎といった古典的名著、研究者の最新の論文から調査官解説まで幅広に読みあさりました。とりわけ、調査官解説は、百選やケースブックで最高裁判例にあたる都度、その全ての解説を読破したことは自分の中で大きな自信となりました。学ぶ分野についても、基礎7法、選択科目、民刑事の実務科目(要件事実や模擬裁判)は勿論、隣接分野(法哲学や法律英語)なども含め、履修可能なほぼ全単位を取得しました。
勉学の方法論について悩むより、要は試行錯誤でやってみるというスタンスで実際にぶつかってみることが重要だと考えております。
3 在学時の勉学と現在の職務内容との関連
法科大学院は、私の属する世界の言葉で言えば、「法曹養成の士官学校」であると言えます。奇しくも、人生で2回士官学校に入ることになりましたが、論理的思考力や社会のリーダーとしてのノブレス・オブリージュの精神を修得することができ、それは、私の血肉となって、現在の職務に繋がっております。
是非とも、在学生の皆様には、幅広に、また、真摯に学んで頂きたいと考えております。司法試験に直接関係するか否かといった近視眼的な考え方ではなく、法学の基礎基本を養ってほしいと思います。敢えて厳しい言い方になるかもしれませんが、幅広に学ぼうとする積極的な姿勢がなければ、将来、困難な状況に陥ったクライアントに寄り添う余力は望めないでしょう。
また、進路についても、そもそもの司法制度改革の趣旨から言えば、従来型の民刑事の世界に留まったドメスティックな法曹像に限定する必要もないかと思います。社会の法化を謳う司法制度改革の一環として誕生した法科大学院の修了生を、狭い世界に閉じ込めておくのは、率直に言ってもったいないと思います。私自身、いわゆる法曹3者ではないものの、自分は"LAWYER(法律実務家)"であると、修了以来一貫して考えております。
LAWYERの強みは、「民事ならばこうなるが、刑事の発想ではこうなる」といったように分野横断的に、法的知見を有機的に連結して思考できること、即ち「法的思考力」を持っていることです。"Think as a lawyer !" 是非とも、その法的思考力を自身の持ち場で発揮してみてはいかがでしょうか。